いじめ重大事態を視野に入れるときに最初に考えること|普通に教師を続けていくために、やってはいけないこと

この記事は約7分で読めます。

いじめについて、児童生徒や保護者から「心身に大きな影響が出ている」「もう学校へ行けない」と訴えがあったとき、学校側が「そこまで深刻には見えない」「いじめとの因果関係がまだ分からない」と受け止め、通常のトラブル対応の中にとどめてしまうことがあります。

しかし、いじめ防止対策推進法と文部科学省のガイドラインは、重大事態を「すべての事実が確定した後」に扱う仕組みにはしていません。「いじめにより重大な被害が生じた疑い」または「いじめにより相当の期間、欠席を余儀なくされている疑い」がある段階から、学校と設置者が動き始めることを求めています。

担任が重大事態かどうかを一人で決定する必要はありません。むしろ、個人の感覚で否定せず、正確に記録し、学校いじめ対策組織と管理職へつなぐことが重要です。本記事では、初任から中堅の先生が知っておきたい初動を整理します。

1.重大事態は「疑い」の段階から始まる

いじめ防止対策推進法第28条は、重大事態として大きく二つの場合を定めています。一つは、いじめにより児童生徒の生命、心身または財産に重大な被害が生じた疑いがある場合です。もう一つは、いじめにより相当の期間、学校を欠席することを余儀なくされている疑いがある場合です。

重要なのは、条文にも文部科学省のガイドラインにも「疑い」と書かれていることです。いじめの事実、因果関係、被害の程度を学校が完全に確認し終えるまで何もしなくてよい、という意味ではありません。

文部科学省の2024年8月改訂版ガイドラインは、疑いが生じた段階から、学校の設置者または学校が調査の実施に向けて動き出さなければならないと明記しています。重大事態調査の目的も、誰かの責任を追及することだけではなく、事態への対処と同種の事態の再発防止にあります。

「重大事態と認めたら学校の非を認めることになる」と考えると、判断が遅れます。重大事態として扱うことは、結論を先に決めることではありません。重大な影響が生じた可能性を受け止め、必要な支援と調査を正式な手順で始めることです。

2.「学校では確認できない」を否定の根拠にしない

いじめは、教職員が見ている場所だけで起こるわけではありません。休み時間、部活動、登下校、オンライン上のやり取りなど、学校が直接把握しにくい場面で継続することがあります。また、児童生徒が学校では平静に見えても、家庭で眠れない、食事が取れない、登校前に体調が悪くなるという変化が現れる場合があります。

そのため、児童生徒や保護者から「いじめにより重大な被害が生じた」という申立てがあったときは、その時点で学校が「いじめの結果ではない」「重大事態とは言えない」と考えていても、重大事態が発生したものとして報告・調査等に当たることが、改訂版ガイドラインに示されています。「いじめ」という言葉が使われず、人間関係による心身の変化として訴えられた場合も含まれます。

調査をした結果、法の要件に当たらないと判断されることはあり得ます。しかし、「学校ではいじめを確認できなかった」というだけで、最初から重大事態ではないと断言することはできません。ガイドラインは、重大事態に当たらないことが明らかだとするには、いじめが起こり得ないことを客観的・合理的な資料等で説明する必要があるとしています。

保護者の訴えを過度に警戒し、防御的に反論すると、支援の開始も事実確認も遅れます。学校の認識と家庭で見えている姿が違うときこそ、双方の情報を並べる必要があります。

3.欠席30日は「30日まで待つ」という基準ではない

不登校重大事態では、年間30日の欠席が一つの目安とされています。この数字だけが独り歩きすると、「まだ10日だから重大事態ではない」「30日になったら検討する」という運用になりかねません。

改訂版ガイドラインは、児童生徒が一定期間連続して欠席し、その要因としていじめが考えられる場合、30日に達する前から設置者に報告・相談して情報を共有し、丁寧に判断する必要があるとしています。欠席日数は重要な情報ですが、支援を待つためのカウントではありません。

また、欠席していないことだけで重大な被害を否定することもできません。無理をして登校している、別室で過ごしている、転校や退学を選ばざるを得なかったなど、表面上の出席だけでは分からない場合があります。心身や生活への影響を含め、児童生徒の側から状況を見る必要があります。

登校の変化やSOSを捉える視点は、「2学期当初に教師が気をつけたいこと|不登校・問題行動・自死・SOSを見逃さない学校の対応」でも整理しています。

4.担任がその場で判定せず、組織へ正確につなぐ

担任や顧問が最初に相談を受けることは多くあります。そのときに必要なのは、重大事態に該当するかをその場で判定することではありません。本人の安全と心身の状態を確認し、話された内容をできるだけ本人の言葉に沿って記録し、学校いじめ対策組織と管理職へ速やかにつなぐことです。

「それはいじめではないと思う」「相手にも事情がある」「もう少し様子を見よう」と先に評価すると、児童生徒は二度と話せなくなるかもしれません。最初は、「話してくれてありがとう」「今の安全を一緒に確認します」「一人で抱えず、必要な人と相談して対応します」と伝えます。

一方で、「必ず相手を処分する」「誰にも言わない」「すぐにすべて解決する」と約束することも避けます。本人に説明しながら、必要な範囲で組織に共有し、見通しが分かった段階で改めて伝えます。重大な相談を受けたときの守秘と共有については、「子どもに『誰にも言わない』と約束しない」も参照してください。

5.通常のいじめ対応と重大事態対応を混同しない

学校いじめ対策組織が聴き取りやアンケートを行い、いじめの有無を確認することは重要です。しかし、その確認だけで重大事態調査が終わったことになるとは限りません。改訂版ガイドラインは、初期の調査でいじめを確認しても、重大事態の全貌が十分に明らかになっていない場合、資料の再分析や必要な追加調査を行うことを求めています。

重大事態が疑われるときは、学校内で完結させず、設置者に速やかに報告・相談します。重大事態が発生した場合には、法令に沿った報告と調査体制の整備が必要です。学校と設置者が連携することで、指導主事、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、必要に応じた専門家の支援につなげやすくなります。

初期のいじめ対応全般については、「いじめの訴えを担任一人で『様子見』にしない」で詳しく扱っています。本記事は、その後に重大な影響や長期欠席の疑いが生じた段階の対応に焦点を置いています。

6.調査中も児童生徒の安全と学びを止めない

重大事態調査は、事実を明らかにして再発を防ぐために必要です。ただし、調査結果が出るまで支援を保留してよいわけではありません。座席、活動場所、登下校、部活動、オンラインでの接触などを確認し、本人が安心して過ごすための具体策を検討します。

別室登校、学習課題の提供、オンラインによる学習支援、養護教諭やスクールカウンセラーとの面談など、本人の希望と状態を確かめながら選択肢を用意します。支援策を学校だけで決めて押し付けず、「今一番心配なことは何か」「学校にしてほしいこと、してほしくないことは何か」を継続して聴きます。

自傷の兆候や自殺をほのめかす言動がある場合は、いじめ調査とは別に、生命の安全を優先した緊急対応が必要です。「自傷のサインを『気を引きたいだけ』と決めつけない」もあわせて確認してください。

7.明日から確認する七つのこと

  1. 相談内容を評価せず記録する。日時、場所、本人の言葉、心身や欠席の変化を、事実と推測に分けて残します。
  2. その日の安全を確認する。相手との接触、下校、部活動、オンライン上のつながりに危険がないかを確かめます。
  3. 個人で重大事態を否定しない。判断を担任や学年だけに置かず、学校いじめ対策組織と管理職へ共有します。
  4. 欠席30日を待たない。連続欠席や登校困難といじめの関連が疑われる段階で、設置者への相談につなげます。
  5. 家庭の情報を学校の観察と並べる。睡眠、食欲、身体症状、帰宅後の様子など、学校では見えない変化を聴き取ります。
  6. 窓口と次の連絡時期を伝える。誰が保護者と連絡を取り、いつまでに何を伝えるかを曖昧にしません。
  7. 調査と支援を同時に進める。事実確認中であっても、安全確保、心のケア、学習機会の保障を止めません。

8.組織として防ぐこと

重大事態への対応が遅れる原因の一つは、「誰が設置者へ報告するのか」「どの段階で管理職に上げるのか」「休日や夜間の相談をどう扱うのか」が校内で共有されていないことです。年度当初の研修だけで終わらせず、短い事例を使って報告経路を確認しておく必要があります。

相談記録の様式、資料の保存場所、保護者との窓口、欠席状況を確認する担当、スクールカウンセラー等との連携方法も決めておきます。情報は必要な人に確実につなぐ一方、興味本位で広げず、個人情報を適切に扱います。

そして、教職員が「重大事態かもしれない」と言いやすい職員室をつくることが欠かせません。早めの報告を大げさだと責める組織では、次の報告が遅れます。迷った段階で相談できること自体を、安全管理の力として評価する必要があります。

9.まとめ

いじめの重大事態は、学校がすべての事実と因果関係を確定してから初めて扱うものではありません。重大な被害や不登校との関連に「疑い」が生じた段階、または児童生徒や保護者から重大な被害の申立てがあった段階から、組織的に報告・調査・支援へ動くことが求められます。

担任が一人で法的な判断を背負う必要はありません。してはいけないのは、学校では深刻に見えないという感覚だけで訴えを退けることです。正確に記録し、本人の安全を確保し、校内組織と設置者へつなぐ。その初動が、被害の深刻化を防ぎ、児童生徒と学校双方を守ります。

参考資料

LATEST

最新の記事

タイトルとURLをコピーしました