「学習を自己調整できる子どもを育てる」と聞くと、教師が説明する時間を減らし、子どもに学習内容や方法を自由に選ばせる授業を思い浮かべるかもしれません。しかし、自己調整は「自分で好きに進めること」でも、「困っていても手を出さないこと」でもありません。
2026年10月5日に公表された文部科学省の「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」では、児童生徒が見通しを持ち、学習方略を工夫し、成果を振り返って次の学習につなげることが重視されています。同時に、教師による学習環境の設定、課題の工夫、足場かけ、学習方略の指導も必要だとされています。
この記事では、主要検索キーワードを「次期学習指導要領 自己調整」とし、審議中の方向性を明日の授業でどう受け止めればよいかを整理します。なお、審議まとめは次期学習指導要領そのものではありません。2026年10月28日現在、10月6日から11月5日まで意見公募中であり、具体的な記述や運用は今後の審議で変わる可能性があります。
1.学習の自己調整は「見通し・遂行・振り返り」の循環
文部科学省の資料では、自己調整学習の過程を、学習前・学習中・学習後の三つに分けて示しています。学習前には、目標を確かめ、どの方法なら進められそうかを考えます。学習中には、自分の理解やつまずきを捉え、方法を変えたり助けを求めたりします。学習後には、結果だけでなく、使った方法の効果を振り返り、次の学習へつなげます。
大切なのは、振り返りだけを増やしても自己調整にはならないことです。毎時間、「分かった」「楽しかった」と書かせるだけでは、学習前の見通しや学習中の修正と結び付きません。目標、学習方法、途中の判断、結果の関係を捉えられるようにする必要があります。
先週の記事で扱った次期学習指導要領で重視される「外化」は、この循環の学習後に関わります。書く・話す・図にすることで、自分の理解を確かめ、次の方略を考えやすくなります。
2.自己調整と放任は正反対
自己調整を促す授業では、子どもに選択の機会があります。しかし、選択肢を示すだけで教師の役割が終わるわけではありません。何を学ぶのか、どこまで到達するのか、どのような根拠で考えるのかは、教科の目標と単元の構造に基づいて教師が明確にします。
例えば「教科書、動画、友達との相談から好きな方法を選びましょう」と言っても、それぞれの方法をいつ、何のために使うかを知らない子どもは選べません。得意な方法だけを繰り返し、必要な学びを避けることもあります。教師は、方法ごとの特徴を示し、試させ、効果を比較する場面を設けます。
困っている子に「自分で決める授業だから」と支援しないのも誤りです。つまずきの所在を一緒に確認する、最初の一歩を小さくする、参考例を示す、相談相手をつなぐなど、必要な足場を用意します。支援は自己調整を妨げるのではなく、将来一人で選べるようにするための準備です。
3.明日の授業では選択肢を増やしすぎない
自己調整を取り入れようとして、最初から学習課題、順序、時間、教材、学習形態の全てを選ばせると、子どもの認知的な負担が大きくなります。初任者や取り組み始めた学級では、一つの場面に一つか二つの選択を置くところから始める方が安全です。
例えば、授業の終盤に「今日の考えを文章で説明する」「図と短い言葉で説明する」のどちらかを選ばせます。あるいは練習問題を解く際に、「まず例題を見直す」「一問解いて教師に確認する」のどちらから始めるかを選ばせます。選択後には、選んだ理由と役に立ったかを短く確かめます。
選択の自由度は、学習内容への習熟、学級の関係性、年齢、支援の必要性によって調整します。全員に同じ選択肢を出すことが公平とは限りません。音声、文字、図、実物操作など、学びにアクセスする方法を複数用意することも重要です。
自己調整が機能しているかは、静かに作業しているかでは判断できません。子どもが目標を説明できるか、つまずいたときに方法を変えられるか、必要な支援を求められるかを観察します。教師は進度表だけでなく、選んだ方略と変更の理由を短く記録すると、次の授業で必要な支援を考えやすくなります。
4.学習前は「何をするか」より「何を目指すか」を共有
学習計画表を配って手順を書かせるだけでは、見通しを持ったことにはなりません。子どもが、単元の終わりに何ができればよいのか、今日の学習がそこへどうつながるのかを理解している必要があります。
授業の冒頭では、教師が「今日は三つの資料を比べ、共通点と違いを根拠とともに説明できることを目指します」と到達点を示します。その上で、「最初に題名を見る」「数値を表にする」「分からない語句を確かめる」など、取り得る方略を提示します。
評価規準を子ども向けの言葉に直すことも有効です。ただし、細かなチェック項目を大量に示すと、項目を埋めることが目的になります。単元の中核となる二、三点に絞り、よい例と改善途中の例を比べながら共有します。
5.学習中は「進んでいるか」ではなく「方法が合っているか」を問う
机間指導では、「どこまで進んだ」「あと何問」と進度だけを確認しがちです。自己調整を支えるには、「今、何を確かめようとしているのか」「その方法で分かったことは何か」「別の方法を試すなら何か」と問い、方法と理解の関係に目を向けさせます。
手が止まっている子には、すぐ答えを教える前に、課題が分からないのか、方法を選べないのか、資料を読めないのかを確かめます。必要に応じて、「例題のどこまでなら説明できる」「この二つの資料ならどちらから読む」と選択を狭めます。
一方、順調に見える子にも確認が必要です。正答していても、偶然だったり、他者の考えを写しただけだったりすることがあります。「なぜその方法を選んだか」「条件が変わっても使えるか」と問い、理解を外化させます。
6.学習後は結果より方略の効果を振り返る
振り返りでは、「できたか」だけでなく、「何をしたからできたのか」「うまくいかなかった方法をどう変えるか」を扱います。例えば、次の三つから一つを選んで書かせると、短時間でも具体性が生まれます。
- 今日、理解に役立った方法と、その理由
- 途中で変えた方法と、変えた後に起きたこと
- 次に同じ種類の課題に取り組むとき、最初に試すこと
毎回長文を書かせる必要はありません。カードを選ぶ、記号を付ける、隣の人に説明する、音声で残すなど、目的に応じて方法を変えます。教師は全てを評価材料にするのではなく、次時の説明や支援を変えるための情報として使います。
学習評価の審議中の方向性については、次期学習指導要領で学習評価はどう変わるのかも確認してください。自己調整を促すことと、提出回数や振り返りの文章量で態度を評価することは分けて考える必要があります。
7.学習方略は子どもに発見させるだけでなく教える
学習方略とは、覚える、理解する、考えを整理する、理解度を確かめるための具体的な方法です。要点を自分の言葉で言い換える、複数の例を比べる、図に表す、時間を空けて思い出す、分からない点を質問にするなどがあります。
有効な方略を、全て子どもの試行錯誤だけに委ねる必要はありません。教師が方法を実演し、なぜ役立つかを説明し、一緒に使い、徐々に支援を減らします。「今日はこの方法を全員で試す」「次は二つから選ぶ」「慣れたら自分で組み合わせる」と段階を設けます。
この考え方は、教師主導か子ども主体かという二者択一ではありません。教師が必要な知識や方略を教えつつ、子どもが使い方を選び、結果を確かめられるようにします。個別最適な学びと協働的な学びの基本で扱ったように、個別、一斉、協働の場面を目的に応じて組み合わせます。
8.自己調整が難しい子を努力不足と見なさない
目標を立てる、時間を見通す、複数の方法から選ぶ、自分の理解を言葉にすることには、それぞれ異なる負担があります。発達段階、障害の特性、日本語の習得状況、不安の強さ、これまでの学習経験によって難しさは変わります。
計画どおり進められないことを、すぐに「主体性がない」「やる気がない」と評価してはいけません。選択肢を視覚化する、作業を小さく区切る、時間の見通しを示す、途中で教師と確認する時刻を決めるなど、環境を調整します。
また、協働場面で他者の方略を見ることは学びになりますが、速い子の方法を全員に強制するのは避けます。自分に合う方法は一つではなく、課題によっても変わることを伝えます。
9.明日から変えるなら一つの問いを決める
自己調整を一度に授業全体へ導入する必要はありません。明日の授業では、机間指導で「その方法を選んだ理由は何ですか」と一度尋ねる、終末に「次に試す方法」を一行書かせるなど、一つの変更から始められます。
単元を構想するときは、学習前に見通しを持つ場面、学習中に方略を変えられる場面、学習後に結果と方法を結び付けて振り返る場面があるかを確認します。探究的な学習での位置付けは、探究のプロセスの基本と審議の方向性も参考になります。
校内研修で共有するときは、特定の授業形式を全教員へ一律に求めないことも大切です。「選択肢の数」ではなく、子どもが見通しを持ち、方法を修正できた具体的な場面を持ち寄ります。教科や学年による違いを認めながら、教師がどの支援をいつ減らしたかまで検討すると、実践が形だけになることを防げます。
次期学習指導要領に向けた議論が示しているのは、教師が手を離すことではありません。子どもが自分の学びを理解し、必要な方法を選び直せるよう、教師が課題、環境、方略、対話を設計することです。正式決定を待つ間にも、授業の目標を分かりやすくし、途中で方法を見直す機会を一つ置くことはできます。
参考資料
- 文部科学省「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」(2026年10月5日)
- 文部科学省「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(1/4)」
- 文部科学省「審議まとめに関するパブリック・コメント」(2026年10月6日)
- 文部科学省「総合的な学習・探究の時間に関する目標・内容の構造化等について」
- 文部科学省「総則・評価特別部会(第4回)議事録」
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