生成AIと児童生徒の個人情報|AI×教育と学校現場

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生成AIを校務で使い始めると、すぐに迷う場面があります。通知表所見の下書き、生徒指導記録の整理、保護者への説明文、個別の支援案などを作りたいとき、「児童生徒の情報をどこまで入力してよいのか」という問題です。

結論から言えば、氏名を消しただけで安全になったとは限りません。また、「生成AIには個人情報を一切入力できない」と一律に考えるのも正確ではありません。利用できる範囲は、教育委員会の方針、サービスとの契約、入力データの取扱い、情報の重要性、利用目的によって変わります。教師が自分の判断だけで決めず、承認された環境で、必要最小限の情報だけを扱うことが基本です。

この記事では、主要キーワードを「生成AI 個人情報 学校」とし、入力前に教師が確認すべきことを、明日の校務で使える形に整理します。

1.生成AIへの入力は「下書きの材料」ではなく情報の提供である

生成AIへ文章を入力すると、画面上では質問を書いているだけに見えます。しかし、学校が保有する情報を外部サービスへ送って処理させる行為でもあります。入力した内容が保存されるか、サービス改善や機械学習に利用されるか、管理者が履歴を確認できるか、一定期間後に削除されるかは、サービスや契約によって異なります。

文部科学省のガイドラインは、教育委員会の方針、教育情報セキュリティポリシー、管理者の指示に従うことを求めています。適切なセキュリティ対策が講じられた環境を除き、成績情報等の重要性が高い情報をプロンプトへ入力してはならないとも示しています。便利だから、無料だから、学校の端末から開けるからという理由だけでは、校務利用の許可にはなりません。

まず確認するのは、AIの性能ではなく、「このサービスを、このアカウントと端末で、この目的に使ってよいか」です。学校の公用端末でも、教育委員会が承認していないサービスへ自由に情報を入力してよいとは限りません。反対に、組織契約で入力データを学習に使わず、保存期間や管理機能が定められた環境でも、何でも入力できるわけではありません。

2.氏名を消しても個人が分かることがある

個人情報は、氏名だけではありません。顔写真、音声、学籍番号、メールアドレスなどに加え、他の情報と容易に照合することで個人を識別できる情報も含まれます。公にされている情報であっても、個人情報に当たり得ます。

例えば、「中学2年、女子、吹奏楽部、先月転入、保護者が海外赴任中、特定の持病がある」と入力すれば、氏名がなくても校内では誰のことか分かる可能性があります。「Aさん」と置き換えても、出来事の日付、学年、部活動、家庭状況、相談内容を組み合わせれば、匿名化したことにはなりません。

特に、成績、健康、障害、家庭環境、虐待や性被害、いじめ、不登校、生徒指導、相談記録には慎重さが必要です。本人にとって不利益や深い苦痛につながり得る情報です。「名前を消したから大丈夫」ではなく、残った情報の組合せから本人が分からないかを確認します。

学校での基本的な情報管理については、児童生徒の個人情報を私物端末・私物クラウドに保存しないでも整理しています。生成AIも、従来のクラウドやメールとは別物だから例外になるわけではありません。

3.入力情報を三つに分けて考える

実務では、入力候補を「入力しない情報」「組合せに注意する情報」「比較的入力しやすい情報」の三つに分けると判断しやすくなります。ただし、最終的には教育委員会や学校のルールが優先です。

入力しない情報

  • 氏名、顔写真、音声、住所、連絡先、学籍番号
  • 個人ごとの成績、評価、答案、通知表所見の原文
  • 健康、障害、診断、服薬、アレルギーなどの情報
  • 家庭状況、相談記録、いじめ、虐待、性被害、生徒指導の具体的記録
  • 名簿、指導要録、個別の教育支援計画などのファイル

これらを扱う必要がある場合は、個人の判断で一般向けサービスへ入力せず、教育委員会が認めた仕組みと手順を確認します。

組合せに注意する情報

  • 学校名、学年、学級、部活動、役割
  • 珍しい出来事、特定の日付、転出入、受賞歴
  • 人数の少ない集団の属性やアンケート回答
  • 地域名と具体的な家庭・学習状況の組合せ

一項目だけでは個人を特定できなくても、複数を組み合わせると本人が分かることがあります。必要性の低い属性を削り、事例を一般化します。

比較的入力しやすい情報

  • 学習指導要領や公開済みの公的資料
  • 個人と結び付かない単元目標や授業条件
  • 架空の児童生徒を想定した例
  • 学校や個人を特定できない一般的な相談場面
  • 自分で作成した文書の構成や言い回しだけを尋ねる質問

ここでも、著作権、機密情報、未公表情報、教育委員会の利用規程は別途確認します。「公開情報だから必ず入力してよい」とは限りません。

4.個別情報を渡さずに校務を支援させる

生成AIを使うには、児童生徒の記録そのものが必要だと思いがちです。しかし、多くの校務は、情報を一般化したり、ひな形だけを作らせたりすることで目的を達成できます。

保護者への説明文を整えるなら、実名と具体的事実を入力するのではなく、「中学校の担任が、けがの経過を保護者へ説明する文章の構成を、事実・学校の対応・今後の連絡の三項目で作ってください」と依頼します。出力されたひな形へ、必要な事実をAIの外で教師が加えます。

支援方法を考える場合も、「2年3組のAさんは自閉スペクトラム症で、昨日…」と入力せず、「予定変更に不安を感じやすい中学生へ、事前に見通しを伝える一般的な支援例を複数示してください」と一般化できます。AIの提案は参考にとどめ、実際の支援は本人の実態、専門職の助言、校内の支援方針に基づいて決めます。

アンケートをまとめたい場合は、自由記述をそのまま貼り付ける前に、氏名や個別事情が含まれていないかを確認します。承認された環境でないなら、教師が論点だけを抽出して「授業速度、説明、活動時間について意見があった。改善案を整理して」と入力する方法があります。原文を渡さなくても、観点整理はできます。

教材作成時の確認方法は、生成AIで作った教材をどう見直すかも参考になります。

5.「学習に使われない設定」だけで安心しない

入力データを機械学習へ利用しない設定は重要です。文部科学省も、オプトアウト設定や、プロンプトから学習しないサービスの選択を挙げています。しかし、学習に使われないことと、保存されないこと、管理者にも見えないこと、国外へ移転しないこと、情報漏えいが起きないことは同じではありません。

確認すべきなのは、少なくとも、入力内容の利用目的、保存期間、学習利用の有無、第三者提供、データの保管場所、削除方法、管理者権限、事故時の連絡、契約終了後の取扱いです。教師個人が利用規約を読んで承認するのではなく、学校設置者がサービスを評価し、利用範囲を決める必要があります。

個人情報保護委員会は、行政機関等が個人情報を含むプロンプトを入力する場合、利用目的のための必要最小限であることや、入力情報が応答生成以外に使われる場合の法的問題に注意するよう示しています。つまり、「学習しないらしい」という印象ではなく、実際の取扱いを確認する必要があります。

6.便利な機能が増えても自動的に承認済みにはならない

生成AIは、検索エンジン、文書作成ソフト、学習支援システム、ブラウザなどにも組み込まれています。以前から使っているサービスにAIボタンが追加された場合でも、その機能へ学校情報を入力してよいかは別に確認します。

ファイルを丸ごと読み込ませる機能、会議を録音して要約する機能、メールを自動作成する機能は便利ですが、入力の範囲が広くなりやすい機能でもあります。名簿、会議資料、相談記録、保護者とのメールを「とりあえず全部」読み込ませないことが大切です。

個人情報保護委員会は、学校で実際に起きた漏えい事案の分析から、共有範囲や保存先の理解不足、設定ミス、誤送信などを示しています。生成AIでも、AI特有の危険だけを見るのではなく、アップロード先や共有範囲を誤るという従来型の事故を防ぐ必要があります。

7.通知表所見や生徒指導では教師が最後に判断する

承認された環境で適切に処理できる場合でも、AIに判断を委ねてはいけません。通知表所見、学習評価、支援方針、生徒指導の見立ては、児童生徒の将来や学校生活に影響します。AIの出力には、事実と異なる内容や、偏った推測、過度に断定的な表現が混ざることがあります。

AIには、構成案、観点の洗い出し、一般的な言い換えまでを求め、事実確認、妥当性、公平性、本人への影響は教師が判断します。通知表所見での具体的な線引きは、生成AIによる成績出力(通知表等)のリスク管理についてを参照してください。

学校向けガイドラインの位置付けや改定動向については、文科省が学校向け生成AIガイドラインの改定方向を提示で整理しています。最新の教育委員会ルールと併せて確認してください。

8.入力前の七つの確認

  1. その生成AIは、教育委員会または学校が利用を認めたものか。
  2. 公用アカウント、公用端末、定められた方法を使っているか。
  3. 目的は明確で、AIを使う必要が本当にあるか。
  4. 氏名だけでなく、組合せによって本人が分かる情報も除いたか。
  5. 成績、健康、相談、生徒指導など重要性の高い情報が含まれていないか。
  6. 入力データの学習利用、保存、共有、削除の条件を確認したか。
  7. 出力を教師が検証し、最終判断と説明責任を引き受けられるか。

一つでも分からない項目があれば、入力を止めて管理職や教育委員会の担当部署へ確認します。迷ったときに相談できる窓口と、利用可能なサービス一覧を校内で共有しておくことも重要です。

まとめ

生成AIへ児童生徒の情報を入力してよいかは、氏名を消したかどうかだけでは決まりません。承認された環境か、利用目的は明確か、必要最小限か、組合せで本人が分からないか、入力内容が学習や保存にどう使われるかを確認する必要があります。

教師が明日から変えられる行動は、個別記録をそのまま貼り付けず、まず事例を一般化し、ひな形や観点だけを生成させることです。どこで使えるかだけでなく、どこでは使わないかを決め、最後の判断と責任を教師が担うことが、生成AIを学校で使い続けるための土台になります。

参考資料

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