2026年10月1日、カスハラ対策が義務化|学校・教師・管理職は何を変えるべきか

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2026年10月1日、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策が義務化されました。

これは、一般企業だけの話ではありません。公立学校も対象です。

これまで学校では、保護者や地域住民からの苦情、要望への対応について、担任や管理職が大きな負担を抱えることがありました。

夜遅くまで続く電話。何度説明しても納得してもらえない面談。特定の教職員に対する執拗な批判。学校では対応できない要求。

こうした問題に、教師が一人で向き合ってきたケースもあるのではないでしょうか。

もちろん、保護者からの苦情や要望が、すべてカスハラに当たるわけではありません。

学校の対応に問題があれば、学校は事実を確認し、改善する必要があります。子どもの安全や教育を受ける権利に関わる訴えは、真摯に受け止めなければなりません。

しかし、保護者の要望に応えることと、社会通念上許容される範囲を超えた要求を受け入れることは、別の問題です。

今回の義務化で重要なのは、教職員を守ることが、個人の努力や管理職の力量だけに委ねられる問題ではなくなったということです。

学校現場では、何が変わるのでしょうか。

1.2026年10月1日、何が義務化されたのか

2025年6月に成立・公布された労働施策総合推進法等の改正により、2026年10月1日から、事業主がカスタマーハラスメントを防止するために必要な雇用管理上の措置を講じることが義務付けられました。

厚生労働省は、2026年2月に具体的な指針を公表しています。

その主な内容は、次のとおりです。

  • カスタマーハラスメントに対応する方針の明確化と周知
  • 教職員等が相談できる体制の整備
  • 被害が発生した場合の迅速かつ適切な対応
  • カスハラを抑止するために必要な措置
  • 相談者のプライバシー保護や不利益な取扱いの防止

つまり、「問題が発生したら管理職が対応する」という従来型の仕組みだけでは十分ではありません。

問題が起きる前から対応方針を示し、相談体制を整え、発生したときには職員を保護する。さらに、同じ問題を繰り返さない仕組みをつくることが求められています。

なお、義務付けられたのは防止措置の実施であり、すべての苦情をなくすことや、カスハラと判断した相手に必ず特定の制裁を科すことではありません。

2.学校もカスハラ対策の対象となる

学校と保護者の関係は、企業と顧客の関係とは異なります。

保護者は、子どもの成長を支える大切なパートナーです。学校と保護者は、互いに協力しながら教育を進めていく関係にあります。

その一方で、学校も教職員が働く職場であることに変わりはありません。

厚生労働省の指針では、カスハラの対象となり得る「顧客等」に、施設の利用者やその家族、近隣住民等が含まれています。学校も対象施設として想定されています。

文部科学省も、2026年8月に「学校と保護者・地域住民等とのより良い関係構築のためのガイドライン」を公表しました。

このガイドラインは、保護者を学校と対立する存在として捉えるものではありません。

保護者等からの正当な相談や要望を大切にしながら、教職員の就業環境を害するような過剰な要求や不当な言動には、適切に対応するという考え方です。

この二つを両立させることが、学校のカスハラ対策の基本になります。

3.保護者からの苦情は、どこからカスハラになるのか

カスハラの判断は、決して単純ではありません。

厚生労働省の指針では、次の三つの要素をすべて満たすものをカスハラとしています。

① 顧客等による言動であること

② 業務の性質などに照らして、社会通念上許容される範囲を超えた言動であること

③ その言動によって労働者の就業環境が害されること

学校に置き換えて考えてみます。

例えば、保護者が「子どもが学校で嫌な思いをしている。事実を確認してほしい」と申し出ることは、正当な相談です。

仮に学校側に不適切な指導があった場合、「説明してほしい」「改善してほしい」と求めることも、当然にカスハラになるわけではありません。

一方で、次のような言動は、カスハラに該当する可能性があります。

  • 教職員の人格を否定するような暴言を繰り返す
  • 長時間の電話や面談によって教職員を拘束する
  • 正当な理由なく、同じ要求を執拗に繰り返す
  • 教職員の私生活や個人情報を執拗に詮索する
  • SNSでの誹謗中傷や個人情報の公開をほのめかして脅す
  • 威圧的な言動によって不当な要求を通そうとする

ただし、これらは該当可能性を示す例です。

実際には、要求の内容、そこに至った経緯、学校側の対応、言動の頻度や継続性、教職員の就業環境への影響などを総合的に判断する必要があります。

大切なのは、苦情の内容と、その伝え方を分けて考えることです。

指摘された問題が正当であっても、伝え方によってはカスハラになる可能性があります。

反対に、学校にとって対応が難しい要求であるという理由だけで、カスハラと決めつけることも適切ではありません。

4.担任が一人で抱え込む学校を変える

私が今回の義務化で特に重要だと考えているのは、担任任せの保護者対応を見直すことです。

学校では、担任と保護者との間で生じた問題について、「まず担任が対応する」「担任が最後まで責任を持つ」という考え方が根強く残っている場合があります。

担任が最初の相談窓口となること自体は、必ずしも問題ではありません。

しかし、同じ要求が何度も繰り返され、説明が平行線をたどり、教員が精神的に追い詰められている。それでも対応を担任に任せ続けているとすれば、学校として考え直す必要があります。

一人の教員が対応できる範囲には限界があります。

例えば、次のような対応が考えられます。

保護者から同じ内容の電話が連日続いている場合には、担任個人の判断だけで対応を続けさせず、管理職が状況を確認します。

必要に応じて対応担当者を変更し、連絡方法や対応時間を整理します。

面談では複数の教職員で対応し、やり取りを記録します。

学校だけでの対応が困難な場合は、教育委員会に相談し、専門的な助言や支援を受けます。

重要なのは、担任から管理職へ、管理職から教育委員会へと、適切な段階で組織的な対応に切り替えることです。

担任の力量不足と考えてはいけません。

組織として対応すべき段階に来ているのに、個人で対応を続けさせる。その判断の方を見直す必要があります。

5.管理職に求められる五つの対応

校長や教頭の仕事にも、今回の義務化は大きく関係します。

学校設置者が行うべき措置を、各学校で確実に機能させることが必要になるからです。

(1)相談しやすい体制をつくる

職員が保護者対応で困ったときに、誰へ相談すればよいのかを明確にします。

「何かあれば相談してください」という言葉だけでは十分ではありません。

担任、学年主任、生徒指導担当、教頭、校長など、どの段階で誰が対応するのか、学校の実情に応じて整理しておくことが必要です。

また、相談した教職員が責められたり、不利益を受けたりすることがないようにしなければなりません。

(2)複数で対応する仕組みをつくる

困難な保護者対応を一人に任せないことです。

面談への複数人参加、記録の作成、対応方針の事前共有などを基本にします。

担当者が一人しかいないと、事実関係の確認が難しくなることがあります。また、精神的な負担が集中しやすくなります。

複数で対応することは、教職員を守るだけではなく、保護者との認識の食い違いを防ぐことにもつながります。

(3)対応の限界を決めておく

学校として、どこまで対応するのかという基準を明確にしておくことも重要です。

例えば、電話の受付時間、面談の予約方法、対応担当者、記録の方法、威圧的な言動が続いた場合の対応などです。

ただし、緊急の事故、いじめ、自殺リスクなど、児童生徒の生命・安全に関わる問題には、通常の受付時間にかかわらず必要な対応を行うことが前提です。

一律に対応を打ち切るのではなく、事案の性質に応じた判断が必要です。

(4)教職員の健康を守る

カスハラ対応では、目に見えない負担が生じます。

何日も続く電話や面談によって、教職員が授業の準備に集中できなくなることもあります。

保護者からの連絡が気になり、休日も気持ちが休まらない場合もあるでしょう。

管理職には、対応状況を把握するとともに、必要に応じて担当を変更したり、面談や電話対応から一時的に離したりする判断が求められます。

相談を受けるだけではなく、その後の勤務状況や健康状態にも目を向ける必要があります。

(5)教育委員会との連携を日常化する

学校だけでは対応が難しい事案もあります。

法的な判断を要する問題、継続的な威圧行為、安全確保の必要がある事案などです。

こうした場合、学校管理職だけで抱え込む必要はありません。

教育委員会と早期に情報を共有し、必要に応じて法律の専門家や警察等とも連携できる体制を整えておくことが重要です。

学校だけに責任を負わせない仕組みづくりが求められます。

6.教育委員会の役割は、これまで以上に大きくなる

今回の義務化について、もう一つ強調しておきたいことがあります。

それは、学校設置者である教育委員会等の役割です。

学校でカスハラが発生したとき、校長がすべての判断を行い、解決しなければならないというわけではありません。

教育委員会には、学校が適切に対応できるよう支える役割があります。

具体的には、相談窓口の整備、対応マニュアルの作成、教職員への研修、専門家との連携、学校への助言や支援などが考えられます。

特に重要なのは、学校から相談を受けたとき、教育委員会が具体的にどのような支援を提供できるかということです。

「学校で適切に対応してください」という回答だけでは、学校は何も変わりません。

専門的な助言を行うのか。面談に同席するのか。教育委員会が対応を引き継ぐのか。法律の専門家につなぐのか。

事案に応じて、どのような支援が可能なのかを明確にする必要があります。

また、学校に問題がある場合には、その問題を改善することも教育委員会の仕事です。

教職員の保護と、学校として果たすべき説明責任は、両立させなければなりません。

7.「保護者を敵にする」制度ではない

カスハラ対策が義務化されたと聞いて、保護者との関係が悪くなるのではないかと心配する人もいるかもしれません。

しかし、制度の目的は、保護者からの意見を封じることではありません。

学校への正当な相談や要望は、引き続き大切に扱う必要があります。

学校は、保護者からの指摘によって課題に気づき、改善できることもあります。

一方で、どれほど強い思いがあっても、教職員に対する暴言や威圧、不当な要求が許されるわけではありません。

学校と保護者が良い関係を築くためには、互いの立場を尊重する必要があります。

その意味で、カスハラ対策は、保護者との関係を断つための制度ではなく、健全な関係を維持するための仕組みでもあります。

8.学校では、まず何から始めればよいのか

制度を理解することと、学校で実際に運用できることは別です。

管理職が制度を説明しただけでは、教職員の負担は減りません。

学校として、まず次の点を確認することを勧めます。

  • 保護者対応で困った場合の相談先が決まっているか
  • 同じ問題を担任一人に抱え込ませていないか
  • 長時間の電話や面談への対応方針があるか
  • 困難な事案を記録し、管理職間で共有できているか
  • 教育委員会の相談窓口や支援体制を把握しているか
  • 教職員の健康や心理的負担を確認できているか
  • 保護者に対して学校の対応方針を適切に説明しているか

新しい会議や書類を増やすことが目的ではありません。

既存の校内体制や教育委員会との連絡体制を見直し、必要なときに機能するようにすることが大切です。

特に、実際に困った事案が発生したとき、「誰が、いつ、何を判断するのか」が曖昧になっていないかを点検する必要があります。

9.教職員を守ることは、子どもたちの教育を守ること

学校の中心にあるのは、子どもたちの教育です。

教師は本来、授業をつくり、子どもを理解し、成長を支えることに力を注ぐ存在です。

しかし、過剰な苦情や不当な要求への対応に多くの時間とエネルギーを奪われれば、その影響は日々の教育活動にも及びます。

教職員の心身の健康が損なわれれば、学校全体の教育活動を維持することも難しくなります。

だからこそ、教職員を守ることは、単なる労務管理の問題ではありません。

子どもたちに安定した教育環境を提供することにもつながります。

今回の義務化を、単に新たな法令への対応として終わらせてはいけないと考えます。

これまで個人の我慢や努力で乗り切ってきた問題を、学校と教育委員会が組織として引き受ける。

その転換が、今、求められています。

参考資料

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